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待って!! その国語の授業!!-〈語り手〉とは何か?-【基礎編】

木組みでできた語り手と聞き手の人形群 「鍛地頭-tanjito-」の国語教育論
この記事は約11分で読めます。

【架空の国語科教科書教材】

タイトル:ジャイアンツ,優勝に向かって突き進め!!

 広島東洋カープのセリーグ3連覇を牽引してきた丸佳浩選手がFAを宣言!!
 この度,新天地となる読売ジャイアンツ(以下,「ジャイアンツ」と表記)に入団しました。
 やった~!! 万歳~!! これで今シーズンのジャイアンツの優勝は間違いありません。
 噂によると,原監督は,丸選手がジャイアンツに入団することを一つの条件に,3年間,努力と忍耐を続けた高橋監督の後を引き継ぐことにしたとか。主力の阿部慎之助・坂本勇人両選手などは,丸選手のFA宣言に対して「勇気ある決断。尊重します。共に優勝を目指しましょう。」と歓迎しています。
 ジャイアンツのユニフォームがばっちり似合う丸選手。先日の日ハムとのオープン戦では,右中間への大飛球をジャンプ一番!! バランスを崩しながらも好捕。白球が収まったグラブを高々と差し上げる雄姿を披露しました。頼れる男が,今度はジャイアンツを優勝に導きます。
  がんばれ!! 丸佳浩!!  頑張れ!! ジャイアンツ!!

問 傍線部①,②の作者の気持ちを説明しなさい。

筆者注:上記の文章は「架空のスポーツルポルタージュ(のつもり)」です。
文章中の話材については,筆者が創造したものであり,完全なフィクションですので,お間違えのないようにお願い申し上げます。

マツダスタジアムでカープを応援するファンが上げた真っ赤なジェット風船
広島東洋カープを応援する真っ赤なジェット風船

0 プロローグ

生きる自分への自信を持たせる「鍛地頭-tanjito-」の塾長,小桝雅典です。

今回のブログは,「塾長の修士論文の内容が新学習指導要領及び解説の国語編に!!」(小桝雅典,BLOG「鍛地頭-tanjito-」,2019.1.28)を受けての第1弾となります。

ブログの目的は,今次改訂となった主に高等学校新学習指導要領の国語に導入された「語り手」の概念を解説することにあります。ただし,この解説は学校教育にのみかかわるものではなく,新たな〈読み〉の世界を再構築する意味において,読書行為を行われる全ての皆様にお役立ていただけるものでもあると考えております。しばらくお付き合いのほど,よろしくお願いいたします。

1 架空の授業

そこで,早速ですが,解説に移ります。

まず,様々な仮定条件を列記します。

  • 本ブログの冒頭に誠に稚拙なスポーツルポルタージュ(のつもり)を用意いたしました(恥ずかしい~)。 このルポルタージュの「作者」は私(小桝)です。
  • 私は売れないスポーツライターです。稼ぎが殆どなく,苦しい経済状態です。このような私に,ある日,「丸佳浩選手とジャイアンツを称賛し,今シーズンの優勝を期待する記事を書いてくれないか。」との依頼がありました。依頼主は大手の出版社さんでした。
  • そして,このルポルタージュが小学校高学年の検定教科書の教材に採録されました。(絶対にあり得ないことですが…(汗・笑) )

さて,この教科書教材が,とある小学校高学年の国語の授業で扱われていたとします。活発な学級のようです。大勢の児童が担任の先生の発問に,「はい。」と大きな声で,挙手をして,発言の機会(チャンス)を待っています。

そのときの先生の発問は,次のようなものでした。

「このルポルタージュの「作者」はどんな気持ちで「がんばれ!! 丸佳浩!!」(傍線部①)と書いたのでしょう?」

「頑張れ!! ジャイアンツ!!」(傍線部②)から,「作者」のどのような気持ちが読み取れますか?」

筆者注:児童生徒に問いかける場合,確認の質問と発問にはレベル差を付けます。しかも,発問にも補助的な発問とメインの発問とがあります。当然,レベル差があります。通常,メインの発問は一つの内容を問います。ここでは,解説の便宜上,二つのメインの発問を行っています。

児童たちは純真な心で明るく,元気に答えました。

〔傍線部①について〕

  • 「作者」は丸佳浩選手の大フアンです。
  • 「作者」は丸佳浩選手に活躍してもらいたいと思っています。
  • 「作者」は丸佳浩選手に頑張ってもらって,ジャイアンツに優勝して欲しいと思っています。
  • 「作者」は,丸佳浩選手が阿部選手や坂本選手など,他の選手たちと仲良くなって欲しいと思っています。
  • 「作者」は丸佳浩選手を頼みにしています。
  • 「作者」は丸佳浩選手を格好いいと思っています。

など

〔傍線部②について〕

  • 「作者」はジャイアンツのことが大好きです。
  • 「作者」は,今シーズン,ジャイアンツに優勝して欲しいと思っています。
  • 「作者」は,今シーズンこそ,広島カープを打ち負かして,ジャイアンツが優勝できると思っています。

など

これらの言葉を聴いた先生は,次のように児童の発言を評価しました。

「そうですね!! みなさん,「作者」の気持ちをしっかりと読み取りましたね!!」

白い雲を見下ろし青い空に浮かぶ4つの白い「?」

2 待って!! その国語の授業!!

この国語の授業って,何だかおかしくないですか?

「そうですね!! みなさん,「作者」の気持ちをしっかりと読み取りましたね!!」

「いいえ,しっかりと読み取っていません。」

「作者」は売れないスポーツライターの私(小桝)です。
「えっ!? 私ですか?」

「私は大のカープフアンです!!」

つまり,「作者」はアンチジャイアンツの熱狂的なカープフアンなのです。(ジャイアンツフアンの皆様,誠に申し訳ございません。)食べる物にも事欠く始末で,成長期の娘もいる。考えに考えた挙げ句,金銭のために止む無く,とても残念で辛いけれど,日本全国の数多くのカープフアンを裏切り,溢れ出す涙を必死に堪(こら)え,「(鈴木)誠也,ごめん,緒方監督,申し訳ございません。」と咽(むせ)びながら,仕舞には思い余って,虎の咆哮(ほうこう)張りの雄たけびを張り上げ,断腸の思いで,このルポルタージュを綴った「作者」は,紛れもない〈カープ命〉の私(小桝)なのです。

「鍛地頭-tanjito-」塾長の小桝雅典
塾長 小桝雅典
セリーグ4連覇!!
頑張れ!! 広島東洋カープ!!
(副塾長:この写真を使い回し過ぎです!!)
カープオープン戦を応援後の塾長(対 オリックス・バッファローズ 2019年3月17日 於 マツダスタジアム)
(塾長:ほんなら,これ!!
この日,寒かったわ~,両軍とも打線も寒かったし(#^ω^))
広島カープオープン戦
2019.3.17 於 マツダスタジアム
対オリックス・バッファローズ
カープ命!!

〔傍線部①について〕

確かに,「作者」である私(小桝)は,丸佳浩選手を良い選手だと思っています。打席後,好打/凡打にかかわらず,ベンチで真摯(しんし)にメモを取る姿勢などは,分析的・知性的で好印象を受けます。それでいて/だからこそ,優れた身体能力も相俟って,パワフルで,かつ,ワンプレーが緻密で高技術の体得者ときているので,かなり痺れますね。ですから,他球団に所属しても,日本球界を背負うプレーヤーとして,益々活躍して欲しい選手の一人だと思います。

ですが,そうかと言って,正直なところ,丸佳浩選手にジャイアンツを牽引して欲しくないですね。まあ,優勝は無理でしょうけど(ジャイアンツフアンの皆様,誠に申し訳ございません。優勝は,今シーズンもカープです),丸佳浩選手の活躍で優勝してもらっては困る。(心の狭い私……。)抑々(そもそも),選手の育成(=教育)ができないからと言って,金で選手を獲得するような球団が優勝しては,日本のこどもたちの〈教育〉に宜しくない。「プロ野球の世界なのだから,金で解決するのは当たり前だ!! そういうことをこどもに教えることも大切だ!!」という言説があるとしたならば,それは,正に「プロ野球言説」の権威性に完全に回収されてしまった姿と言えるでしょう。私が〈相対化〉いたします!! 

あっ,つい,カープのことになると,見境がなくなってしまう!! 申し訳ございません。話を元に戻します。

「このルポルタージュの「作者」はどんな気持ちで「がんばれ!! 丸佳浩!!」(傍線部①)と書いたのでしょう?」

「作者」である私(小桝)の気持ちは,上述したとおりです。丸佳浩選手のフアンではあるし,活躍していただきたいとも思っているし,ジャイアンツの他の選手たちとも仲良くしていただきたいし,総じて格好いいとも思っています。ですが,丸佳浩選手の活躍で,ジャイアンツに優勝して欲しいとは,これっぽっちも思っていないのです。

〔傍線部②について〕

「頑張れ!! ジャイアンツ!!」(傍線部②)から,「作者」のどのような気持ちが読み取れますか?」

「作者」である私(小桝)がジャイアンツを好きなわけがない。優勝なんぞして欲しくもない。ジャイアンツがカープを打ち負かすだって!? 今シーズン,ジャイアンツはカープに1勝もできないんじゃないのう~。これが「作者」である私(小桝)の気持ちです。

〔傍線部①・②より〕

だから,申し上げているのです。
「待って!! その国語の授業(当該の発問)!!」「この国語の授業(当該の発問)はおかしいですよね。」って。

しかし,決して児童が悪いのではないのです。
発問が悪いのです。すなわち,(担任の先生の)教材(作品)に対する〈読み方〉がおかしいのです。

3 「語り手」の存在

ここまでのお話で,何かお感じになることがございませんか?
何度も申し上げますが,「作者」である私(小桝)はカープフアンです。しかし,それにもかかわらず,上掲の作品世界(「架空の国語科教科書教材」)は,ジャイアンツフアンと思われる(もしかすると,そう見せかけている)誰かによって語られていますね。だから,ストーリーが冒頭の「広島東洋カープのセリーグ3連覇を牽引してきた…」から始まり,「…頑張れ!! ジャイアンツ!!」まで展開する(流れる)わけです。私たちには視認できない誰かが,作品世界の中に入り込んで,丸佳浩選手とジャイアンツを称賛しているのです。

それは恰もテレビや映画等のドラマのようです。ドラマの主人公を演じる俳優/女優さんたちや脇役等の俳優/女優さんたち。それに,エキストラの方々など,これらの方々はドラマの視聴者には〈見える存在〉として設定してあります。線条性の文字列が織り成す物語などで言えば,「登場人物」のことです。ですが,ドラマの中には「主人公の淳が小学生の頃だった。ある日,隣で飼っていた犬がいなくなり,…」など,そのドラマの時代や出来事などを要所要所で語ってくれる〈見えない存在〉の「人」がいます。そうした〈存在〉は何もドラマの世界だけではなく,「日本の風物詩」など登場人物はいないのに「語り」だけで進められていくテレビ番組の中にもいます。それと同じ〈存在〉です。よくスクリーン(テレビ画面)などの右下か左下に字幕スーパーとなって紹介される〈存在〉です。そうです。「ナレーター」とか「語り手」とかと書いてある〈存在〉のことです。

上掲の作品世界(「架空の国語科教科書教材」)にも,こうした〈見えない存在〉の「語り手」(「ナレーター」でも構いませんが,新学習指導要領には「語り手」と表記されています。)がいたのです。この作品世界の場合,「語り手」の性別はよくわかりません。ですが,どうもジャイアンツフアンのように思えます。しかし,もしかすると,「読み手(聴き手)」にはジャイアンツフアンと思わせておいて,本当はカープフアンである可能性もあります。その場合の「かたり」は「騙(かた)り(だます意)」になります。

要するに,ここでのポイントは,「(文学作品だけに限らず,)線条性の文字列の世界には,その文章のジャンルを問わず,「作者」と明確に区別される「語り手」が存在し,その「語り手」が作品世界を語っている」ということなのです。

まずは,基礎的な大前提として,この「語り手」なる〈存在〉を記憶に留めておいていただきたいと思うのです。

2018年日本シリーズ第1戦でカープを応援する前,ヒーローインタビューの水掛けを模したボードの前で万歳をする塾長
今シーズンこそ,日本一!!
(副塾長:この写真も使い回し過ぎです!!)

4 エピローグ

本ブログをお読みくださって,「文字列となった様々なジャンルの文章に「語り手」が存在することは分かった。しかし,それを知って,一体何になるのか?」「「語り手」の概念(「語りの構造読み」)を学校教育に導入する教育的効果は何なのか?」など,種々の疑問が湧出してきた読者がおいでのことと拝察いたします。それらの点につきましては,今回,それぞれのご質問に対して,「とても有益です。」「とても大きな教育的効果がございます。」など,極論すれば,「人間性の涵養に資するものです。」とだけ申し上げておきたいと思います。

本ブログシリーズも長期化の予感が致しております。上述のご質問は,本ブログの究極の目的でもございますから,追々,のんびりとお話させていただければと思います。

なお,今回と同様のテーマで,現在,『平家物語』を教材とした【発展編】を執筆中です。今しばらくお待ちください。

今回は,ここまででございます。

【参考】

「語りの構造を踏まえた読みの授業に関する研究―古文の授業構築を中心に―」(小桝雅典,1998(平成10)年度 広島大学大学院教育学研究科 教科教育科学専攻 国語教育学 修士論文)

【関連】


余話

尾道浪漫珈琲 福屋広島駅前店(地上10階)から臨む広島駅前の光景
尾道浪漫珈琲 福屋広島駅前店(地上10階)から広島駅前を臨む

平成31年2月28日(木),午前10時45分頃。
今日は久し振りに広島市内に出て来ました。
かつての職場があった街。
もう遠い記憶の彼岸にそれはあります。

私は新任の教員時代を尾道で過ごしました。
尾道を離れてからも,時折,尾道商店街を彷徨いました。
その時には,尾道浪漫珈琲によく立ち寄ったものです。

福屋広島駅前店に支店ができていたことをずっと知らずにいました。

書物を求めてジュンク堂をうろついていた私は,
ふと「尾道浪漫珈琲」と書かれた看板の文字を目に留め,
思わずカウンターの端の席に座りました。

丁寧に淹れられたモーニングコーヒーは,
懐かしい尾道の香りがしました。

私の隣の席には,
いつのまにやら,青年教師時代の私が座っていました。
精悍な目つきの生意気そうな奴です。

私はそいつを一瞥して,
そいつにはわからないように,
「ぷっ」と吹き出してしまいました。

「がんばれよ!! 時空の歪んだパラレルワールドの分身よ。」
そう声を掛けた時には,
すでにそいつの姿はありませんでした。

「こいつも,この先,苦労するんだろうなあ。」
「そして,生徒のために人生を賭した大勝負に出る。」
「今度は勝てよ。」

電子書籍を読み終わりました。
まだ随分と時間があります。
青年教師が立ち去って行った懐かしい尾道の香りがする
苦くて甘いコーヒーを啜りながら,
私はこのブログを綴ることにしました。

ⓒ 2019 「鍛地頭-tanjito-」


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