1 はじめに
本章では「言語(運用)能力育成私塾」で使用する教材の見本(一部)をお届けします。
次に示す観点に基づき,「教材見本例」に挑んでみてください。
観点1 各設題に通底する作成理念
当私塾のオリジナル教材は,次に記述する当私塾スタッフの切なる願いの下,作成されたものです。
教材作成理念
- (自己を含む)「他者」のものの見方や考え方並びに共存関係にある自然及び人類が構築した社会システム等を俯瞰できる多角的・多面的で総合的な視点を形成・育成したい。…a
- 20世紀的な「知」及びそのフレーム(≒構造)に係る情報(知識)を〈生きた知識〉として塾生にインプットしたい。また,アウトプットさせたい。…b
- 「言語構成能力(知識)」,「読む力」,「書く力」,「話す力」,「聴く力」をバランスよく高めたい。…c
- 上記a~cを統合化し,「(自己,自然,神仏及び社会システム等を含む)了解・到達不可能なありのままの《他者》」に近接できる意欲的な態度を育てるとともに,〈相対化能力〉を育成したい。
観点2 学習のイメージ化
どのような学習を行うのか, 各設題が目指す力,内容及びレベルなど,学習のイメージをしっかりと把握してください。
観点3 当塾における学習上の(絶対的な)自己の位置
教材見本例の設題を解くことにより,当私塾の教材に対する学習上の自己の位置(レベル)を自己評価してください。
2 教材見本例
(1) 言語(運用)能力を育成する教材(例)
ア 基礎レベル
国語学習部門 中学コース
次の「課題語」の中から2単語以上を使用して,100字以内の文章を作成しなさい。
[課題語]
感嘆,感服,憧憬,思慕,陶酔,尊重
次の「課題語」の中から2単語以上を使用して,100字~200字以内の文章を作成しなさい。
[課題語]
テーマ,背景,設定,モチーフ,構図,素材
国語学習部門・研究部門 高校コース
「デカルト二元論」について,600字程度で説明してください。
なお,その際,次の語群の全ての語を用いること。ただし,用いた語には下線を施すこと。
[語群]
精神,物質,人間,自然,人間(自我)中心主義,意識,無意識,理性,唯物論,身体,〈切り離し〉,〈つながり〉,コスモロジー,機械論的自然観,システム論,物心一元論
イ 応用レベル
国語学習部門・研究部門 高校コース
「デカルト二元論」を思考のフレームとして人間を照射すると,[精神/身体]とする構図が成り立ちます。その場合,「人間の存在」について,あなたは「精神」中心で考えますか,それとも「身体」中心で考えますか。それとも,他に考えがありますか? 「物心二元論」は,一方の「項」は対置する「項」の優位にあるとする考え方であることをふまえ,あなたの考えを800字以内で述べてください。
なお,解答文中に「精神」「身体」などの「 」又は下線等を用いる必要はありません。
ウ 発展レベル
国語学習部門・研究部門 高校コース
次の三つの表は,独立行政法人 国立青少年教育振興機構 調査研究報告書 「青少年の体験活動等に関する意識調査(平成28年度調査)」(発行日 平成31年2月)の「第5章 調査結果集計表 5.2 子供調査(平成28年度)」に掲載された質問項目「Q11-4 あなたは,次のことを1日に平均何時間くらいしていますか。」の調査結果を一部引用したものです。これらの表に収められた集計結果について,次の【問】に答えてください。
【問】
1 表(b)(c)(e)から読み取れることを箇条書きにしてください。(3点以上/字数不問)
2 表(b)(c)(e)を参考にして,高度情報社会(World Wide Web(WWW)の世界)の問題点を
指摘してください。(制限字数 800字)
小論文試験によくある所謂図表分析の出題です。
まずは,3つの表からの正確な読み取り能力が評価の対象です。3つの表が何を集計した表であるかをしっかりと摑んだ上で,特徴が鮮明な数値を具に拾えば, 「高度情報社会(World Wide Web(WWW)の世界)」の問題点の一端が自ずと垣間見えてくることでしょう。
ただし,垣間見えてくる問題点を記述するだけでは,深い思考を有する論述とはなりません。勿論,設題が求める範疇は「問題点を指摘」することですから,そうした思考の浅薄な論述でも要件は満たしていると言えます。しかし, 「高度情報社会(World Wide Web(WWW)の世界)」 の問題点は3つの表に表現されているだけではありません。それらは表層の一部に過ぎないわけです。
「高度情報社会(World Wide Web(WWW)の世界)」 の問題点を考究するには「デカルト二元論」に遡る必要があります。この二元論と3つの表に表現される「ゲームをすること」「スマートフォンを利用すること」及び「インターネットを利用すること」とを関連付けて考えることが大切なのです。表象としての「ゲームをすること」はヴァーチャルリアリティーの出現によるシミュラークルな世界における〈身体の不安定さ〉を意味し,それは〈アイデンティティーの喪失〉の可能性を表しています。また, 「スマートフォンを利用すること」及び「インターネットを利用すること」 は〈脱中心化〉による新たな《自我中心主義》の危険性を示唆していると考えて良いのでしょう。
そういう意味においても, 「高度情報社会(World Wide Web(WWW)の世界)」 の問題は深刻なのです。
なお,余力のある塾生は,指摘した課題の解決方法を考え,論述してみてください。
【参考書籍】『小論文を学ぶ―知の構築のために―』(長尾達也,山川出版社,2001年8月,以後「テキストb」と表記)
「テキストa」「テキストb」で既習の内容を数値(表)の読み取りに〈つなげて〉解答する必要があります。既存の「知」を現代に生起している問題への解決に如何に活用するか。そういう意味において発展性のある設題です。
(b) テレビゲームやコンピューターゲーム(Wii,PSP,DSなど)をすること
(c) スマートフォン(携帯電話を含む)を利用すること
(e) インターネットを利用すること
(2) 小論文・論作文(入試対策)
〔使用市販教材〕
主教材:『小論文を学ぶ―知の構築のために―』(長尾達也,山川出版社,2001.8,1,296円, 本ページでは「テキストb」と表記しています 。)
副教材:『新入試評論文読解のキーワード300 改訂版』(大前誠司,明治書院,H25.10,1,080円)
ア 基礎レベル
見本1
入試対策部門・研究部門 高校コース
「シンギュラリティ」とは「人工知能(AI)が人類の知能を超える転換点(技術的特異点)。または、それがもたらす世界の変化のこと」です。次のサイト記事を参考にして,「シンギュラリティを迎えた後,世の中はいったいどのように変わるのか」について,あなたの予想を600字以内で記述してください。
【サイト記事】
「人工知能ができること・できないことは何か?これからの世の中はどう変わる?」(久留米工業大学,工学の「今」と「これから」~最先端の工学と求められている人材~)
大学入試においてAIに関する出題は頻出と言って過言ではないでしょう。それは話題性のみならず,「AIが展開する時代の予測が付かない。」というある種の期待と不安があるからです。特に,後者については種々の角度からの「不安」があり,単に感情レベルの「問題」ではなく,それは「人間―AI」間の連関に起因する人間の〈尊厳(dignity)〉にかかわる〈問題〉を孕んでいて,人間存在に関する現実的で重大な〈問題〉と言えるからです。したがって,〈現実的な問題〉であるからこそ,(大学入試などの)小論文・論作文問題に出題されるわけです。
本設題においては,解答条件として付与された【サイト記事】をよく読むことが肝要です。その中でAIに「できること/できないこと(問題点)」を理解し,どちらか一方を取り上げる/どちらか一方を捨象するのではなく,両者の均衡(バランス)を図りながら,多角的・多面的・総合的に今後のAIを捉えることが必要となってきます。その上で,近未来(中期ビジョン)から未来(長期ビジョン)へと時間軸に沿った形で,「シンギュラリティ」が設題の中核にあることから「人間―AI」関係について考究することになります。
次に,AIに「できること/できないこと(問題点)」を簡単に記述しておきます。
[できること]
- 大量のデータの蓄積と高速の処理
- 簡単に行えるクリエイティブなタスク など
[できないこと(問題点)]
- 言葉の意味及び概念の理解
- 自ら問いを立てること
- 倫理的問題(AIが感情を持った場合)
- 過失責任(の所在)
- (人間の)失職の増加
- プライバシーの侵害
- 軍事利用の危険性 など
論述に際しては,単に夢物語(思い付き)を記述するのではなく,【サイト記事】あるいは既有の知識を根拠にした論理展開を行うよう留意しましょう。
かと言って,萎縮せず,伸び伸びと論述して見てください。
AIの「できること/できないこと(問題点)」に焦点化した論述に終始しないように気を付けましょう。設題は「世の中はいったいどのように変わるのか(世の中の変化の予想)」ですから,AIの「できること/できないこと(問題点)」の両者ををしっかりとふまえた上で,世相の変化(有様)を予想・論述してください。
見本2(設題の骨子のみ)
例題1 幸福の評価主体は誰(何)だと考えますか?
例題2 医師・看護師(病院)と患者との良好な関係性について,あなたの考えを論述してください。
類題 看護師の対応に猛反発する最期が近い患者に対して,あなたはどのように対応しますか。
例題3 今次改訂となった「幼稚園教育要領」,「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」及び「保育所保育指針」には,幼稚園教育と小学校教育との円滑な接続を図る目的で「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」(10の姿)が示されました。このうち一つを選び,あなたならばどのように取り組むか,具体的に論述してください。
〔10の姿〕
「健康な心と体」「自立心」「協同性」「道徳性・規範意識の芽生え」「社会生活との関わり」「思考力の芽生え」「自然との関わり・生命尊重」「数量・図形,標識や文字などへの関心・感覚」「言葉による伝え合い」「豊かな感性と表現」
例題4 選挙権の年齢の引き下げ(18歳以上)について,あなたの考えを論述してください。
例題5 あなたのストレス解消法とその方法を選んだ理由及び効果について論述してください。
例題6 あなたが「他者」とのかかわりを構築する具体的な方法を論述してください。
例題7 ホタルが発光する仕組みについて説明し,発光することによる利点を論じてください。
例題8 世界的に肥満人口が増えていることをふまえ,「食事と健康」についてあなたが考えることを論述してください。
例題9 あなたは集団競技のスポーツ選手です。同一のプレーについて,あなたの所属するチームの監督とコーチの指示が異なっています。あなたはどのように対応しますか。
例題10 あなたが暮らしている「街」を魅力あるものにするため,あなたにできることを具体的に論述してください。
例題11 人型ロボットに必要なセンサについて人間の五感との対応を観点に論述してください。(宇都宮大学・工 改題)
イ 応用レベル
入試対策部門・研究部門 高校コース
次の3つの資料から読み取った内容をふまえて,自分の論旨に相応しい題を付け,1,200字以内で小論文を作成してください。
[オプション]
資料AとCを200字以内で要約してください。
〔資料〕
A:「環境思想の系譜 : H.D.ソロ」(関口敬二,大阪府立大学紀要(人文・社会科学). 2000, 48,p.63-73,2000-03-31)
B:「1.環境問題―システム思考の要請」(テキストb,pp.94-101)
C:広島大学‐文系前期 2014年度 小論文 【資料5】(『大学入学シリーズ 128 広島大学 文系 傾向と対策 問題と解答 新課程Q&A 2015』,教学社,本文省略)
テーマは現代の喫緊のプロブレマティークである「環境問題」です。「この問題――つまり個人の自由を保障しながら,それにもかかわらず全体を秩序と安定に導く方法はあるか――をどうやって解くかが「環境問題」の核心である。だが,まだ誰もそれに対して明確なことを言っていない(と思う)。だからこそ,この問題が小論文で問われるのである。時代の最先端のプロブレムを見せて,それに対して「君はどう考えるか」と,困難な問題を突きつける,それが小論文なのである。」(テキストb,p.101)とあるように,「受験小論文」の世界では頻出のテーマとなっています。勿論, 近代科学を支えた線形思考,分析的方法や決定論などへの懐疑とともに,「物心二元論」の思考のフレームが醸成した機械論的自然観や人間中心主義への反省が地球的規模のバックグラウンドとなった現況からすれば,「環境問題」はいわば学際的な研究のテーマであって,そうした意味からも「受験小論文」で問われて当たり前のテーマと言えるわけです。
しかし,頻出のテーマであるからこそ,「受験小論文」の模範解答例は少々手垢が付いた(=形骸化した)感がするように思えます。ところが,「環境問題」は現実の〈地球規模の問題〉として完全な解決には至っていません。その点,「形骸化」は〈矛盾〉の領域を脱しきれず,〈受験小論文〉の枠組みの中で「合格―得点―不合格」のメジャーの対象であることがその要因となっていると考えられるわけです。そうではなく,〈受験小論文〉の枠組みを超越(トランス)した《受験小論文》となるためには,〈受験界(合格/不合格の世界)〉を凝視するのではなく,「環境問題」が生起している〈現実〉を直視する必要があるわけです。それが本設題に対する基本姿勢でなければなりません。ですから,本設題に対する解答として,「近代科学を支えた線形思考,分析的方法や決定論などへの懐疑とともに,「物心二元論」の思考のフレームが醸成した機械論的自然観や人間中心主義」を否定するだけの論述では解決の方途がなく全く事足りませんし,〈受験小論文〉もそうした書き方を進めていないと思います。
だからと言って,例えば,エコロジー(環境学)の視野から,「人間/自然(=人間>自然)」とする二元論(二項対立)を廃棄し,単に「人間」と「自然」との共存共栄を(具体例も交えながら)論述するだけでは,それは「人間」側からの「共存共栄」(の強制)であって,本質的には 「人間/自然(=人間>自然)」とする二元論(二項対立) と何ら変わりはないわけです。却って,論理的な矛盾を来していると言えるでしょう。――こうした「矛盾」の生起は「受験脳(受験に勝てる小論文試験合格テクニック)」の弊害と言えます。――〈現実〉はそう簡単に「共存共栄」などできはしません。確かに,線形思考を排し,地球全体を捉え,「システム思考」で,かつ,「人間-自然(=自然―人間)」の一元論で考察を進める必要はあると考えられますが,〈現実〉を見据えた場合,「二項対立」の遺産は,現状,偉大な(?)言説の権威性をもって君臨しており,一元化には必ずや《矛盾》が生じてくるはずなのです。その克服を如何に考えるか。人類が,現在,「環境問題」を難題として捉える一つの理由が,この点にあると言えます。
その克服に示唆を与える資料が「A」と「C」です。両者にはある通底した思考があります。それを如何に〈相対化〉し読み取るか。その上で,〈現実〉を直視する(=システム思考により, 多視点を設定して,〈現実に生起している事象〉を多角的・多面的・総合的(=統合的)に捉える)ことによって,「環境問題」にアプローチする方途を考察する必要があるのです。さらに,その考察結果が「物心二元論」の言説を有する〈現実の大衆〉をその権威性から解放する〈具体的な方途〉になり得るかを検証しておかなけばなりません。そこにどういった概念を持ち込むか。ここが本設題の勝負所となります。
最後に,本設題は広島大学文系(前期)の小論文入試問題を意識して作成しました。
広島大学文系で出題されるレベルよりやや低めの設定の設題です。「環境問題」が完全な解決を見ない理由を常日頃から考えておく必要があります。その鍵は20世紀の「知」の構造に関する知識です。特に,本設題においては「一元論」の考え方を確認しておきましょう。設題に対して既有の「知」を如何に応用するかがポイントです。
ウ 発展レベル(文学系)
次の『竹取物語』の冒頭部を読んで,後の【設題】に答えてください。
いまはむかし,たけとりの翁というふものありけり。野山にまじりて竹をとりつつ,よろづのことにつかひけり。名をば,さぬきのみやつことなむいひける。その竹の中に,もと光る竹なむ一すぢありける。あやしがりて,寄りて見るに,筒の中光りたり。それを見れば,三寸ばかりなる人,いとうつくしうてゐたり。翁いふやう,「我朝ごと夕ごとに見る竹の中におはするにて知りぬ。子になりたまふべき人なめり」とて手にうち入れて,家へ持ちて来ぬ。妻の嫗にあづけてやしなはす。うつくしきこと,かぎりなし。いとをさなければ,籠に入れてやしなふ。
たけとりの翁,竹を取るに,この子を見つけて後に竹取るに,節をへだてて,よごとに,黄金ある竹を見つくることかさなりぬ。かくて,翁やうやうゆたかになりゆく。
この児,やしなふほどに,すくすくと大きになりまさる。三月ばかりになるほどに,よきほどなる人になりぬれば,髪あげなどとかくして髪あげさせ,裳着す。帳の内よりもいださず,いつきやしなふ。この児のかたちのきよらなること世になく,屋の内は暗き所なく光満ちたり。翁,心地悪しく苦しき時も,この子を見れば苦しきこともやみぬ。腹立たしきこともなぐさみけり。
翁,竹を取ること,久しくなりぬ。勢,猛の者になりにけり。この子いと大きになりぬれば,名を,御室戸斎部の秋田をよびて,つけさす。秋田,なよ竹のかぐや姫と,つけつ。このほど三日,うちあげ遊ぶ。よろづの遊びをぞしける。男はうけきらはず招び集へて,いとかしこく遊ぶ。
『竹取物語』(片桐洋一・福井貞助・高橋正治・清水好子 校注・訳者,小学館 日本古典文学全集 8,昭和47年12月,pp.51-52)
【設 題】
「かぐや姫」が「竹」から生まれた必然性について,あなたの考えを論述してください。
なお,論述に際しては,次の要件を守ること。
[要 件]
- 小論文の論旨に相応しいタイトル(主題)を付けること。サブタイトル(副題)の有無は問わない。
- 小論文中にあなたの論旨の根拠を明示すること。
- 「1」の根拠の中には,『竹取物語』以外の古典作品を一つ以上採り上げること。
- 制限字数1,200字以内
自己の身近で気づかないところに,意外と疑問は落ちているものです。「「かぐや姫」がなぜ「竹」から生まれたのか/生まれなければならなかったのか?」という疑問は,既に人口に膾炙している疑問ですから「気づかないところ」とは言えません。ですが,塾生(読者)の中には,この疑問そのものに対して「気づかなかったなあ~」といった感慨をお持ちになられた方もおいでのことでしょう。普段,当たり前に考えていること(=思っていること,感じていること)が,却って,当たり前すぎて自分自身で十分に理解できていなかった。――こうしたことは往々にしてあることです。塾生(読者)の皆様にもご経験がおありのことと拝察いたします。――実は,このような身の周りの〈ちょっとした疑問〉が研究(≒探究的な学習)のテーマとなるのです。「何気なく思い,感じ,考えていることを改めて第三者的な視点から見つめてみる(≒俯瞰,〈相対化〉)必要性・重要性を当設題から感じ取っていただきたい」,これが当設題の一つの大切なねらいなのです。こうした俯瞰力や〈相対化能力〉が身に付くと,自己内の「了解・到達不可能なありのままの《他者》」に近接する力量が磨かれてきます。それは同時に,自己以外の「了解・到達不可能なありのままの《他者》」に近接する能力に磨きを掛け,結果的に〈自己〉や〈他者〉を大切に〈思いやる心〉を生むのです。
さて,当設題は文学論の領域に位置します。文学論の走りを記述してみようというわけです。出典も『竹取物語』の有名な冒頭からの引用ですから,読解のレベルは決して高いわけではありません。かと言って,「(この設題への解答は)楽勝~!!」とばかり解答者が自らの当て推量を滔々と記述して良いわけではありません。それでは小論文になりません。
では,本設題に対してどのように解答していくか?
大学入試問題等にはよくあるパターンですが,問題の条件(本設題では【要件】)にそのヒントがあるのです。持論の「根拠」を明示すること,しかも,その「根拠」の中には「『竹取物語』以外の古典作品を1つ以上採り上げ」なければならない。ここが一つのヒントなのです。つまり,このヒントは『竹取物語』以外の古典作品の中に「かぐや姫」が「竹」から生まれなければならない必然(理由)を語る/そのヒントを語る作品があることを意味しています。
さあ,その古典作品は何か?
探究的な学習(研究)を通して「研究脳」を育てようとする当塾のことですから,勿論,ここでその正解を述べることは致しません(笑)。
どのような思考の方向性でその古典作品を見出すか?
ここが勝負の分かれ目ですね。――何の「勝負」なのでしょうか?(笑)――古典作品と言っても膨大にあるわけです。日本の古典なのか,将又,海外の古典作品なのか? 時代性は? 「竹」に類する/相反する文学的なモチーフからアプローチするのか? 「かぐや姫」という人(?)物形象からアプローチするのか? 『竹取物語』の言語宇宙(言表・言説)と同様のそれらを有する作品からアプローチするのか?
問題解決の方法を考える(≒情報収集を行う)能力は,研究の道だけではなく,これからの未来の時代を〈生き抜く〉ためには必須の能力なのです。何はともあれその能力を鍛えないといけません。ここが,当設題のまた一つのねらいというわけです。
本設題にアプローチするために,古典作品や注釈・解釈書,作品論などを読みわたってください。当塾のスタッフとも熟議をしましょう。
読んで,書いて,話して,聴いて,〈言語能力〉及び〈言語運用能力〉をしっかりと鍛えていただきたいと願います。
「えっ,当設題の解説はこれだけか!?」って。
これだけです(笑)。
おっと,「桃太郎」は絶対に「桃」から生まれないといけません。メロンから生まれた「メロン太郎」,葡萄から生まれた「葡萄太郎」,パイナップルから生まれた「パイナップル太郎」ではいけないわけです。関心がおありの方は,こちらの【類題】も考えてみてください。
それでは。
【類題】
「桃太郎」が「桃」から生まれた必然性について,あなたの考えを論述してください。
家庭で行う小論文課題ですから,自ら進んで調べる営為を必要とします。ただ,何をどのようにして調べるか。まず,これが第一関門。調べたものをどのように〈読む〉か。これが第二関門。読んだ内容をどのように統合するか。これが第三関門。統合した内容をどのように表現するか。これが第四関門。まさに発展問題です。
なお,課題提出の締め切りは数週間のスパーンとなります。
エ 卒塾レベル(塾生共通・オプション)
見本1
【設 題】
- 興味・関心のある分野の書籍等(2冊以上)を読み,その領域内で小論文の問題を作成してください。問題の条件・体裁等は一任します。
- 自らが作成した小論文問題の模範解答及び解説を作成してください。様式等は一任します。
- (余力のある塾生は)採点基準を作成してください。
本設題は全員の塾生に課されたものではありません。ただし,当塾とすれば,塾生全員に熟して欲しいと願っているのです…が。果敢に挑戦されることを渇望します。
なお,課題提出の締め切りは数週間のスパーンとなります。
見本2
【設 題】
量子物理学の知見を援用し,「この世」と「あの世」について,あなたの考えを1,200字以内で論述してください。
なお,論述中に参考文献を明記してください。
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