生きる自分への自信を持たせる「鍛地頭-tanjito-」副塾長の住本小夜子です。
新年度となり,早いもので既に1か月が経過しました。
振り返ってみれば,軽度自閉スペクトラム症の小学校2年生となる息子の進級に際し,正直なところ,私には一抹の不安があったのです。そして,その不安は現実のものとなりました。新学期早々,私は息子の通う学校へ出向くなど,バタバタと走り回る日々を送っていたのです。
息子の「こころ(頭の中)」にはある異変が起きていました。
1 「学校の変化」への対応
息子に起こったその心理的変化とは?
そして,私が取った行動とは?
平成31年3月末。学校から頂いた配付資料により,先生方の異動が明らかとなりました。小規模校にもかかわらず6名もの先生方が異動となられ,私には息子が進級した際の(学校の)環境が大きく変化することが予想されたのです。
学校全体の雰囲気がガラリと変わるが,それを息子は受け留めることができるのか?
その点に不安を抱いた私は,ある日,息子を呼び寄せ,学校からの配付資料を見せながら説明を始めました。
「〇〇先生,おられなくなるんじゃね。」
「△△先生も…。」
「〇〇先生や△△先生がいらっしゃらなくなっても,新しい先生が来られるからね。」
私の声かけに対し,意識した風に毅然とした態度で「分かっとるよ。」と答えた息子。お世話になった先生方が学校を去って行かれることに淋しそうにしていましたが,「パニックにはならない」と息子の様子から察することができました。
そして4月を迎えました。
黄色のカバーを外したランドセルを背負って,息子は意気揚々と登校して行きました。
ですが,その「こころ(頭の中)」には,私が想定していたとおりの変化が生じていたのです。
2 進級はリセット?
2年生になって担任の先生も替わられ,親子で心機一転,頑張っていこうと誓い合いました。しかし,息子は心機一転しすぎてしまったのです。それまでの経験までもリセットされてしまったのです。つまり,1年次に取り組み,身に付けていたはずの学校や家庭での守るべきルールなどが,完全にリセットされた状態になっていたのです。
「先生が替わられる」という話を息子に伝えた際,母子(おやこ)で「今までやってきたことは,2年生になっても(継続して)やります。」と確認していたにもかかわらず,なぜこのようなことが起きてしまうのか?
「3月の終わりに,「1年生の時,学校でトレーニングしてきたことは,2年生になっても(継続して)やります。」と話した(=私が息子に確認した)のを覚えていますか?」という問いに対し,「…そうだった!!」と息子は答えたのです。この瞬間,なぜリセットされたのかを仮想することができたのです。
発達障害を含めた各種精神疾患は,脳機能障害です──そして,私(筆者注:澤口氏,以下同様)の研究成果のひとつである「HQ論」を援用すれば,その大多数は「HQ障害症候群」です。
澤口俊之(2016.3):『発達障害の改善と予防 家庭ですべきこと,してはいけないこと』,小学館eBooks,電子書籍版…a http://a.co/2hw6i8S
HQとは「人間性知能」の略称で,私が提唱した「脳科学的な知能」です。HQには色々な脳領域が関与しますが,中心は前頭前野です。
前掲書a http://a.co/a34q2mi
HQ(Humanity/Hyper-Quotient)とはIQ(知能指数)にかわる指標で「人間らしさの知能」のこと。このHQを司る脳領域のことを「前頭連合野」といい,人の額のすぐ内側に位置しています。論理数学的知能,空間的知能,言語的知能などさまざまな知能をコントロールする役割があります。その前頭連合野は,未来志向性や社会性,対人関係能力,高度な思考力も司っており,人間らしい社会生活を営む上で重要な役割を担っています。このHQこそ,脳の成長期である子どもの時期に育むべき,「生きる力」そのものなのです。
若菜会:「人間らしさの知能,HQ」<「HQと,生きる力」[1]令和3(2021)年3月11日現在,リンク元が不明です。
HQ論から見れば,発達障害はHQ障害症候群です。つまり,全ての障害児でHQ用の神経システム(脳間・脳内操作系)に障害があります。このことからも予想できるように,ほぼ全ての発達障害でワーキングメモリが低下しています。
前掲書a http://a.co/5MJvCgS
ワーキングメモリは「意味のある情報を一時的に保持しつつ適切に操作する脳機能」のことで,前頭前野の神経システム(HQ用神経システム=脳間・脳内操作系)の中心ともなっています。したがって,ワーキングメモリの能力は人間性知能HQの根幹でもあります。
前掲書a http://a.co/57vft1h
私には,上記の引用のように,神経発達症(発達障害)の原因が「ワーキングメモリ」の(機能)低下にあるのではないか」という知識はありました。この知識も脳科学の一研究の結果ですから絶対的なものであるとは言い切れませんが,ただ「知識」としては持ち合わせていたのです。
また,日常の息子の言動にも,今回のケースの原因を想像させるような類似の出来事が度重なっていたのです。したがって,前述の「知識」に併せ,そうした情報を帰納的に扱えば,次のように考えることができたのです。―飽くまでも私の考えであって,科学的に立証されているものではありません。したがって,息子が定期的に通っている療育センターの主治医と連携する必要があります。「生兵法は大怪我の基」であり,この場合,「大怪我」をするのは息子ですから。また,こうした状況は息子に特有のものである可能性もあり,だから「(息子の)特性」として認識できるものです。つまり,一概に普遍化できるものではないということです。無論,他のお子様にも息子と共通の「特性」を持っておられる方もおいでのことと拝察しますが。―ただし,結論から述べれば,「ワーキングメモリ」と「神経発達症」との関係については,よく分かっていないのが現状のようです。
【仮説】
息子の「こころ(頭の中)」では,自らの興味関心に合わせ,瞬時に「これだ!!」と感じた情報だけが強烈にインプットされ,それにより,他の短期・長期の記憶が引き出されにくいという事態が起こる(低下しているワーキングメモリーが原因か?)。今回の場合,息子の「こころ(頭の中)」に最も強烈にインプットされた情報は「2年生になった!! (≒1つ上級生になった。=後輩ができた(お兄ちゃんになった)。」であり,これに起因して,1年次に積み重ねていたトレーニングの情報が引き出されにくくなってしまった。
ワーキングメモリの弱さと発達障害の特性は、その症状に共通点も見られます。
発達障害とは,生まれつきの脳機能の発達のアンバランスさ・凸凹(でこぼこ)と,その人が過ごす環境や周囲の人とのかかわりのミスマッチから,社会生活に困難が発生する障害です。発達障害があると,不注意で衝動的な行動や,読字や書字の苦手といった症状が見られますが,ワーキングメモリが弱い場合に出る症状に似ています。そのため,何らかの関連があると考える専門家もいます。
ただしこの二つの関係性については「発達障害の診断が下りている子どもはワーキングメモリの数値が弱い傾向にある」というデータがあるのみで,関連を決定づける研究結果はまだありません。
「ワーキングメモリと発達障害の特性の関係 」<「ワーキングメモリとは? 生活に不可欠な役割,発達障害との関係,調べ方,対処法をご紹介!」:LITALICO(りたりこ)発達ナビ,監修;井上雅彦 鳥取大学大学院医学系研究科臨床心理学講座教授,下線は筆者が施しました。以下,引用文中の下線は同様です。…b
息子は自閉スペクトラム症であるとともに,注意欠如・多動症の不注意優勢型(ADD)なので,こうした特性と「ワーキングメモリ」との連関性について記述してある参考資料を引用しておきます。
(前略)不注意と衝動性の特性による「注意すべきことの判別が付かない」「忘れ物が多い」「気が散りやすい」などの困りごとは,ワーキングメモリの機能の弱さによって,情報を一時的に記憶したり整理する <ママ> ことが苦手なことが関連しているのではないかとも考えられています。
「ADHD(注意欠陥・多動性障害)」:前掲資料b
そこで,幼稚園から続けている家庭での「だいじなやくそく」も併せて,―息子の「こころ(頭の中)」で引き出されにくいと考えられる情報となっていたので,―改めて継続して取り組むことを確認したのです。
また,この状態に早急に対応すべく,学校(担任の先生)に連絡し,学校で担任の先生(実際には,教頭先生も同席してくださいました。)と私とで個人面談(情報連携)をしていただけるようにお願いしました。
「学校―家庭」間において,統一した〈指導〉が大切だからです。
息子には一時に数多くの情報を処理することに難があります。今後,息子を取り巻くであろう様々な場面・状況(環境)にあって,選択と集中の考え方を持って情報を一元化しておかないと,指導の方向性が異なれば,息子は混乱を来してしまうのです。そうした考え方(対応法)は息子が通う放課後等デイサービスとの間でも同様でした。
「学校―放課後等デイサービス―家庭」間での洗練された情報による統一した〈指導〉が不可欠だったのです。
3 学校との連携
【連携の目的】
- 学校(特に新しい担任の先生)に息子の現状や特性について認識していただく。
- 息子の特性などに対する適切な対応などを知っていただく/検討する。
- 今後,「学校―家庭」間による日常的な情報連携をお願いする。
学校も早急に対応してくださり,教頭先生及び担任の先生との面談(情報連携)となりました。これに伴い,私は配付資料を作成し持参しました。その目的は次のとおりです。
【配付資料作成の目的】
- (学校内で息子の情報の引継ぎはあったであろうが,)1年次の情報を引き継ぐ。
- (「学校―家庭」間での統一した〈指導〉を行うため,)家庭から厳選した指導事項を依頼する。
- (伝達する情報量が多く,新しい担任の先生であったので,)情報を整理し視覚化することにより,面談(情報連携)を円滑に進める。
- (今後も「学校―家庭」間で連携を継続するため,)連携資料として保存・活用する。
なお,個人情報としての連携事項が直截表に現れない(=人目に付かない)ように表紙を付け,「取扱注意」を朱書きしました。また,先生方が連携(情報交換)中にメモを取りやすいように,ページの右端にメモ欄を設けました。
さらに,資料は4部用意しました。同席してくださる教頭先生及び担任の先生は無論のこと,校長先生用と私用です。校長先生には教頭先生から手渡していただきました。
連携資料に記載した内容(構成)は,次のとおりです。
1 息子の特性(「自閉スペクトラム症」と「注意欠如・多動症―不注意優勢型」)について
2 徹底して指導していただきたい事柄について
3 「学校―放課後等デイサービス―家庭」間での連携:「2」よりも上位の概念にある指導事項)
4 1学年次に取り組んだこと
5 2年生で取り組んでいただきたいこと
さらに,この連携資料に「鍛地頭-tanjito-」のブログ記事を2つ(【関連】参照)と,『生徒指導提要』(文部科学省,平成22年3月)から「第2節 発達に関する課題と対応」(「Ⅱ 個別の課題を抱える児童生徒への指導」,冊子 pp.160-163)を添付しました。資料を添付した理由は,1時間という面談(情報連携)の限られた時間の中で提供する情報も限られるため,家庭での息子の状況(情報)を補完するためです。
【関連―連携資料に添付したブログ記事】
- 「自閉スペクトラム症である息子本人が障がいを受容したとき」(住本小夜子,BLOG「鍛地頭-tanjito-」,2018.10.19)
- 「時間感覚を養うスケジュール管理―軽度自閉スペクトラム症の息子の場合―」(住本小夜子,BLOG「鍛地頭-tanjito-」,2019.3.4)
連携資料があったから,時間を焦ることなく,円滑に淡々と息子についての情報連携ができたと思います。私は最後に「(息子の学校での指導において)難しい点はもちろん,些細なことでも構いませんので,いつでもご連絡ください。」とお願いし帰宅の途に着きました。
後日,早々に上記の連携資料を息子が通う放課後等デイサービスにも配付しました。学校でどのような連携をしたのかについて知っていただき,放課後等デイサービスでも同じように指導していただくことになりました。
さらに,学校及び放課後等デイサービスとの連携において,私は次のことを要望しました。
連携した情報を教頭先生及び担任の先生並びに放課後等デイサービスの担当者だけに止(とど)められることなく,学校の全教職員,放課後等デイサービスの全職員間で共有していただきたい。
「学校―放課後等デイサービス―家庭」間で,ブレのない徹底する,統一した〈指導〉があるからこそ,息子の日常的な混乱を防ぐことができ,「してはならないこと」「守らなければならないこと」をあらゆる場所(環境)で学ぶことができるのです。
そして私は,息子とかかわってくださる周囲のお子様(お友達)と保護者様にも,息子について知っていただく必要があると考えていたのです。
4 知ってもらうことから始まる
1学年次,些細なことでお友達とトラブルになったり,特性のため,周囲のお友達に迷惑を掛けてしまったりといったことがあった息子。その都度,今後の対応について息子と共にしっかりと話し込んだり,担任の先生等と連携を取らせてもらったりしていました。しかし,息子の状況(非定型であること)を何も知らないお子様や保護者様からしてみると,「融通が利かない子」「なんでこんなことをしなくちゃいけないの?」といったお気持ちがあったであろうことは容易に拝察されるのです。それは無理もありません。一方,息子本人からしてみれば,「僕の何がいけないの…?」といった周囲に対して反駁したり当惑したりする思い(非定型の人が定型の人に対して持つ一般的な気持ち)とか,「僕は何回言われてもできない…。」といった劣等感や悔しさとか,こうした気持ちを綯交(ないま)ぜにした表情を浮かべていたことも,また事実でした。
そこで,事前に息子と担任の先生の了解を得たうえで, 1年生最後の学級懇談会において,私は「息子は軽度の自閉スペクトラム症である」と保護者の皆さまに公表したのです。「自閉スペクトラム症」の特徴,息子の現状及び対応の仕方等についても説明させていただきました。なぜならば,息子が通う小学校は小規模校であるため,お友達とは卒業するまでずっと同じクラスであり,息子の状況を知っていただくことが,息子だけではなく,皆さまのためになると考えていたからなのです。
同じ考え方で,2学年最初の学級懇談会においてもお話をさせていただきました。
【学級懇談会でお話した内容】
- 息子の現状(軽度の自閉スペクトラム症であること)
- 「自閉スペクトラム症」について
- 息子本人も自閉スペクトラム症であることを理解していること
- そのために,日々,苦手な行動等を克服するトレーニングを行っていること
- そして,皆さまに「自閉スペクトラム症」を理解していただく意味について知っていただきたいこと
こども同士のトラブルがなく,友好なコミュニケーションを図るためには,まずは大人同士が神経発達症等について正しい知識を身に付けることが必要です。そうすれば,(大人同士を含めて)事前にこども同士のトラブルを回避することもできますし,仮にトラブルが起きた場合でも,正しい対応や指示ができるようになります。
自閉スペクトラム症の人たちは、特性を周囲に理解してもらいにくく、いじめ被害に遭う、一生懸命努力しても失敗を繰り返す、などのストレスがつのりやすいため、身体症状(頭痛、腹痛、食欲不振、チックなど)、精神症状(不安、うつ、緊張、興奮しやすさなど)、不登校やひきこもり、暴言・暴力、自傷行為などの「二次的な問題(二次障害)」を引き起こしやすいといわれています。そうなる前に家族や周囲がその子の特性を正しく理解し、本人の「生きづらさ」を軽減させて二次的な問題を最小限にとどめることが、自閉スペクトラム症への対応の基本となります。
「自閉スペクトラム症とは」子どもの自閉スペクトラム症,こころの健康情報局 すまいるナビゲーター
「息子は軽度の自閉スペクトラム症なのです。」と話すと,「こどもの前で言っても大丈夫?」と小さな声で訊(たず)ねられることがあります。「大丈夫です!! 息子自身も自分が自閉スペクトラム症と分かっていますから。」と私は胸を張って答えます。抑々,なぜ,「自閉スペクトラム症」ということを隠す必要があるのか? 「自閉スペクトラム症」であることは悪いことなのか?
飽くまでも私の考えですが,「隠す」という行為は,例えば,息子の場合,「〈息子自身(存在)〉を隠す」ということであり,「〈息子の存在〉を認めない」ということにつながります。
仮に,(私が)申し訳なさそうに,消え入りそうな声で,息子についてのひそひそ話をすれば,その様子を見た息子は「自閉スペクトラム症(の人)は悪いんだ…。」と卑屈になり,「(自らを)申し訳のない(存在)だ」と思い込んで,人前に出ることを嫌がるようになると思われます。
保護者が殻に閉じこもってしまえば,こどもも必然的に殻に閉じこもってしまいます。保護者が正しい知識と経験(理論に裏打ちされた実践)を持って堂々と胸を張ってこどもの前に立てば,こどもも日々のトレーニングは無駄ではないと理解し,堂々と胸を張って前に立つことができます。
最も息子の近くにいる私が堂々と胸を張って,笑顔で過ごしていることが,息子にとっての自信となり力となる基盤の一つなのです。それとは逆に,「僕は自閉スペクトラム症だけど(/だから)大丈夫!!」と,息子が毎日笑顔で過ごしてくれることが,私の生きる糧にもなっているのです。
発達障害のある児童生徒の保護者も大きな不安を抱えています。我が子への期待感や気持ちの焦りから、苦手なことを無理強いしたり、注意や叱責を繰り返したり等、誤った対応が続いてしまうこともしばしばみられます。できないところにばかり目がいき、児童生徒の良さを認める機会が少なくなってしまいがちです。認められるよりも叱られる機会が多いほど、児童生徒は不安定さを増し、適応状態がさらに悪化してしまいます。
「保護者との協働」(「第2節 発達に関する課題と対応」,『生徒指導提要』,文部科学省,平成22年3月,冊子版 pp.162-163)
(中略)特に、行動面に課題を抱えている児童生徒の場合は、しつけや養育の問題を指摘されることが多く、保護者自身も子育てに自信を失い、孤立している場合が多く見られます。
保護者が担任や学校に相談する気持ちを持てるかどうかは、そこに信頼関係があるかどうかです。日常的に情報交換を行い、保護者と教員がお互いに話しやすい関係をつくっておくことが大切です。学校が家庭の問題を指摘し、保護者が学校の対応への不満を述べるのでは話合いになりません。学校の考えを一方的に押し付けるような対応ではなく、保護者の考えを十分に受け止めながら、児童生徒の情報を共有し、適切な対応について一緒に考えていく姿勢が肝心です。
県教委で本県の先頭に立ち,生徒指導を推進してきた塾長は言います。
「神経発達症の児童生徒に多く見られる次のような状況がある。」
障害特性によるつまずきや失敗がくり返され、学校生活に対する苦手意識や挫折感が高まると、心のバランスを失い、精神的に不安定になり、様々な身体症状や精神症状が出てしまう等、二次的障害として不適応状態がさらに悪化してしまう場合があります。二次的障害としての症状には、不登校や引きこもりのように内在化した形で出る場合、暴力や家出、反社会的行動など外在化した形で出る場合などがあります。うつ病や統合失調症などの心の病気にかかる場合もあります。虐待の原因になっている場合もあります。
「3 二次的障害の早期発見と予防的対応」(「第2節 発達に関する課題と対応」,『生徒指導提要』,文部科学省,平成22年3月,冊子版 pp.161-162)
「ただ,二次的障害として,こうした(上記引用:「3 二次的障害の早期発見と予防的対応」)状況以外のケースをも見てきた。それは,神経発達症のある児童生徒の保護者自身が「自らの子育てが悪かったから(,こどもがこうなった)。」と思い込んでしまうなど種々の要因により自信を喪失し,うつ病や統合失調症などの心の病に罹る場合だ。このような保護者の状況を見た神経発達症のあるこどもが「自分のせいだ」などと思い込み,それが引き金となって,こどもまでも心の病に罹ってしまうことがある。(心の病に罹ったこどもを見て,保護者も心の病になる場合もある。)したがって,そうした状況に陥らないためには,人それぞれだから一概には述べられないが,まずは,何はともあれ,神経発達症についての的確な理解(適正なこどもの見立ての結果)が保護者や周囲を取り巻く者には必要であり,そのためにも,早期に医療・福祉機関等との連携を行わなければならない。ただ,その連携のタイミングを見計ること自体がまた難しいが,保護者が「(こどもの言動等に対して)何だかおかしい。」と感じたときには,即座に専門機関に掛かる必要がある。そうした意味において,厳しい言い方になるが,保護者の「在り方」は非常に重要だ。最近は脳科学の世界においても,幼年期段階の早期受診による神経発達症の改善を述べるようになった。」
さて,皆さまは,NHKの「u&i」という小学校全学年向けの放送番組があるのをご存知でしょうか?
「u&i」は発達障害などの困難があるこどもたちの特性を知ることで、多様性への理解を深めるこども番組です。メインパートは、こどもと妖精の対話劇。困難のある友達の“ココロの声”に耳を傾けながら、その悩みや特性を知り、どうしていくのがいいかを考える力を身につけていきます。
「u&i」NHK for School,NHK日本放送協会
我が家ではこの放送番組を毎回録画し,息子と一緒に視聴することにしています。その目的は,次のとおりです。
- 息子が自分自身を客観的に見つめることができる。
- (息子が,)周囲のお友達が息子のことをどのように認識しているのかを理解できる。
- 息子にある神経発達症をどのように改善していくのかを息子と共に考えることができる。
初めて息子と一緒に番組を視聴した際,番組の冒頭で,早くも息子は「見たくない!!」とうつ伏せになり,拒否反応を示したのです。そこで,一旦再生を止めて,
「自分がいつもしてしまうことを,周りのお友達がどのように思っているのか分かるから一緒に見てみよう。」
「自分が苦手なことについて,何を頑張ってトレーニングしたら良いのかが分かるから一緒に見てみよう。」
と声を掛けました。すると,息子はむくっと体を起こし,テレビに向かって座ったのです。(この時,息子と視聴したのは「授業に集中したいのに…」というタイトルの放送回でした。)
番組を視聴しながら,息子は「これ僕もやっている」「お友達はこんな風に嫌な思いをしていたのか…。」と自分を番組の登場人物に重ね,客観的に見つめながら,学校での自分の姿を改めて認識したようでした。また,「こういうことが苦手なんよね」と私が補足した点も再認識し,そのために取り組んでいるトレーニングの意図についても再確認していました。
この番組のホームページでは,各放送回を無料で配信しており,加えて放送回ごとに教材,先生向けの学習指導案及びワークシート等をダウンロードできるようになっています。このような配慮がなされているということは,神経発達症のあるこどもやその保護者だけではなく,こどもたちを含めたすべての方に「神経発達症」について 知ってほしいと願う番組制作者の思いと時代の要請があるのではないかと思います。
「定型のこどもが非定型のこどもを知る/非定型のこどもが定型のこどもを知る」意義を改めて考えさせていただける番組だと思います。「(定型のこども・大人が)非定型のこども・大人のことなど全く関係ない。」,「定型のこどもに非定型のこどものことを教えて何になる!?。」ましてや「自分だけが得をすれば良いのだ。他人(ひと)なんて知ったことじゃない。」といった誤った認識は払拭されなければならないのです。塾長が,最近,特によく口にするようになった言葉ですが,確かに普遍主義・自我中心主義が横行するポストモダンの時代は終焉を迎えています。時代は「令和」という新時代に移り変わりました。私たちの誤った認識も,そろそろ移り変わらねばならないのです。
是非とも,皆さまにもご覧いただきたい番組だと思います。
参考:「u&i」NHK for School,NHK日本放送協会
- 「「自閉スペクトラム症」など「神経発達症」と診断を受けるこどもは,これからますます増える傾向にあり,「神経発達症」のお子様と触れ合う機会も多くなると思います。そうした中で,今,皆さんの身近に私たち親子がいます。そうした環境が皆さんにとって幸運であると思っていただけたら幸せです。」
- 「「自閉スペクトラム症」についてお知りになりたいとか,ご迷惑をお掛けしますが,息子への対応で困っているから,その方法を知りたいとか,どんなことでも構いません。いつでもお声を掛けてください。必要であれば,資料などもお渡しいたします。誠意をもってお応えします!!」
- 「息子は自分の苦手なところをクラスの皆さんに支えていただいているという自覚を持っています。そして,クラスの皆さんお一人お一人に感謝しながら,ここで過ごさせていただいています。新たな1年が,また皆さんと共に成長できる1年になればと思っています。」
そういって,私は話を終えました。
お話を聞いてくださった保護者様からは温かいお声を掛けていただいたり,「そうだったんですね。……。」と息子に対しての理解を示してくださったりした方もおられ,公言して良かったんだと感じています。しかし,依然として〈周知〉はされていません。私から一方的にお話をしたとしても,周りの皆さまが〈知りたい〉と思ってくださらない限り,それは皆さまの心に届きません。
公言したことをどのように受け止めていただいたのか,果たして息子の状態が正確に伝わったのかは分かりません。公言は決して息子のためだけではなく,クラスのため,学校のため,そして地域のためであると考えています。「学校―家庭」間だけではなく,保護者間,地域間においても,お互いに連携し合い,お互いに知り合うことで,全ての皆さまが住みやすい,そんな(こころの)居場所ができあがるのだと思います。
そうした願いを込めながら,走り続けた1か月が過ぎ去っていきました。
【塾長追記―本ブログに認めてある副塾長の言動について―】
県教委で公立学校の生徒指導を指導してきた者として付言します。
今回の副塾長の言動は,〈副塾長〉としてはほぼ満点です。
今回の息子さんのようなケースの場合,本来は,校長の校務分掌命令により新担任が定まった時点で,学校は即座に副塾長が提案した「保護者―学校」間の連携を持たなければなりません。そのためには,当然のこと,それまでに,教職員間で 計画的,継続的に当該(乳幼児・)児童(・生徒)の情報連携が行われていなければならず,担任が交替する際,その情報の申し送りが確認されているべきです。―息子さんの通う学校の情報を把握していませんから,当該校を誹謗中傷するものではありません。一般論として述べています。―
今回はその情報連携の提案を保護者が行ったわけです。何も問題はないばかりか,身内を褒めるようで恐縮ですが,素晴らしい行動だと思います。恐らく,世の中には,「そんな(今回の情報連携のように学校を動かす)ことを保護者が行って良いのですか?」とか,「そんなことをすると,私(当該の保護者)がクレーマー(モンスターペアレント)に思われてしまう!!」とか思われる方がおいでなのではないでしょうか?
しかし,そうした認識は誤りです。
学校が動かないのならば動かせば良い。
(ホンモノのクレーマー(モンスターペアレント)の取る行動ではない情報連携を行うのに,)「私がクレーマー(モンスターペアレント)と思われてしまう(から嫌だ)!!」とは,「自分だけが可愛くて,こどもはどうでも良いのか!!」という話です。
学校と日常的,かつ,計画的に,そして継続して情報連携を行うことが,お子様の成長のためになる―お子様の課題及びその指導方針・方法を共有する―のであるし,保護者及び教職員のためにもなるのです。仮に,(問題行動等)お子様の学校生活でお困りのことが生起したとするならば,その多くは情報連携不足に起因していると言って過言ではありません。何か問題が起きてから,保護者にせよ,学校にせよ,地域社会にせよ,動くのでは遅すぎるのです。その際,もっとも困っているのは当該(乳幼児・)児童(生徒)ですし,保護者や教職員でもあるはずです。「転ばぬ先の情報連携」は,ある意味,生徒指導のセオリーとして,地味な行為ではありますが,とても大切な行為なのです。
このように申し述べてくると,例えば,今回の「副塾長」の場合など,「「副塾長」だからできることであって,私にはできません!!」と仰る方が必ずおられます。―現役の折,何度も経験しました。―勿論,私は「副塾長」と全く同一の言動を取った方が良いとは申し上げておりません。性格であったり,置かれた環境であったりと,保護者も人様々ですから,一概には言えませんが,―だから,「今回の副塾長の言動は,〈副塾長〉としてはほぼ満点です。」と述べたのです。―「副塾長」の取った言動の根底にある思いや考え方は大いに参考になると言えるのです。
副塾長は,日頃,私の隣で仕事をしながら,よく口にしています。
「私はモンペ(モンスターペアレント)と思われようが,どう思われようが,そんなこと構わない。息子や周囲のお子さんが成長してくれたら,それで良い。みんなが仲良く学校生活を送ることができれば,保護者だって,先生方だって笑顔で過ごせるんです。だから,仮に周囲の人たちに嫌われても,私はそれで良い。だから,頑張るんです。」
他の保護者や教職員集団を視野に収めながら,こどもたちの成長,延いては幸せを願いつつ行動する姿勢には学ぶものが多いはずです。
ただ,私はこれまでに数多くの保護者との出会いを持たせていただきましたが,確かに「副塾長」のような保護者は数少なかったと言えます。だから,保護者お一人お一人のお考えや言動がそれぞれに異なっていることもよく理解しています。しかし,知っているからこそ,そうした経験を数多く積んでいるからこそ,自らのお子様,周囲のお子様,他の保護者や先生方の笑顔のために―このポイントを外すことはできません―「保護者―学校」(「保護者―保護者(地域社会))間での連携を行うに臨んで,必ずお一人お一人に合った連携の方法があることも熟知しているのです。
現に,「(その)お一人お一人に合った方法が分からない。」という保護者の言葉もよく窺ってきました。したがって,万一,そうした思いをお持ちになられるようなことがありましたならば,是非とも「鍛地頭-tanjito-」の我々にご一報をいただければと思います。学校社会の酸いも甘いも噛み分けた「鍛地頭-tanjito-」が種々の立場(乳幼児・児童・生徒,保護者,学校,地域社会等)それぞれの「win-win」を目指して尽力いたします。
今回のブログにはこのような我々の思いが底流にあります。(勿論,定型であろうが,非定型であろうが,連携に対する考え方に相違はありません。)したがって,例えば,「副塾長」の作成した「連携資料」を添付した次第です。勿論,完璧な資料という訳ではありません。ですが,学校に対してどのように(情報)連携を申し込めば良いのか,(その時期も含めて,)一つのサンプルにはなろうかと思います。
この「連携資料」を初め,「学校連携」についてご質問がおありでしたら,次のフォームを利用していただき,我々「鍛地頭-tanjito-」にご相談ください。
© 2019 「鍛地頭-tanjito-」
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