みなさん,こんにちは。
「生きる自分への自信を持たせる「鍛地頭-tanjito-」」
副塾長の住本小夜子です。
大変長らくお待たせいたしました。
〔えっ!? 「待っていない。」ですって。まあ,そうおっしゃらず。〕
「塾長のカナダ武勇伝(?)」が帰ってきました。〔拍手~!〕
第4話からはや9か月が過ぎました。(笑)
なにやら,あの白いレストランのカニ騒動の後で,またまた珍事件?
これまでの4話は,こちらをご覧ください。
アメーバブログで公開したものに,若干の加筆がございます。
「塾長のカナダ武勇伝(?)」
第1話 プロローグ:塾長,カナダに旅立つ
第2話 語学研修Ⅰ:語学研修の始まり
第3話 語学研修Ⅱ:語学研修の内実
第4話 語学研修Ⅲ:カニ騒動
塾長:「カニは剥く(捌く)」と言うのだろうが…,こちゃらは手の皮が剥けて(捌けて)おるわい…このペンチの歯,役に立たないぞ,硬すぎる…うん,ペンチに歯ってあるの?…そんなことどうでもええわい!…剥け(捌け)んぞ…こんなに力を入れているのに…カニが生きているように,ペンチと一緒に小刻みにハサミを痙攣させているぞ…」
ボキッ!!
塾長:あっ!!
コトン!!
一本の赤いハサミは塾長を嘲笑うがごとく,ウッドハウスを模した白いレストランの床の上で,楽しそうに,その体を右に左に,まるでゆりかごのように揺らしているのでした。
お客:OH! ha! ha!
塾長:[ありゃりゃ,またやらかしてしもうたわい。しかも,また注目の的じゃ,とほほ。…やっぱり,survivalカニ~…オイオイ,落胆しておる場合じゃないぞ。あの床の上の赤いハサミをどうするんじゃ?…そのままにはできんぞ~,お店に迷惑が掛かってしまう。それにな,わしは世界的にマナーの良い日本から来ているのじゃ。それはスーツの襟に付けた,富士山を背にした日本国旗のピンバッチが証明しておる。…すぐに拾わなきゃ…でも,ただ拾うだけでは芸がないのう。…よし,拾う前にじゃんけんの真似でもして,グーでも出してみるか…うん?…カナダで日本のじゃんけんって通用するのか?…(副塾長注:こんな焦った場面でもギャグを考えていたなんて,今も昔も変わらないのですね。)]
塾長:[ありゃ~ん!!]
塾長:[まずい!! 誰か席を立って,あの赤いハサミに向かっているぞ!! 拾ってもらうのも大変恐縮な話だが,拾ってもらった後で,英語でお礼を言うのか!? もし,長々と話しかけられたらどうする? わしは英語を話せんのじゃ~~~]
思わず席を立つ塾長。
テーブルの角っ子に太ももの上部をぶつけながら,一目散に赤いハサミに…そして,赤いハサミに向かってグーの手を差し出した瞬間,
塾長:[ありゃ~ん!!!]
塾長の視界には自らのグーより先に,赤いハサミを摑んだ人差し指と親指が飛び込んできたのです。タッチの差でした。
じとーぅっとスローモーションのように鎌首を持ち上げる塾長の目には,(塾長注:おい,副塾長,わしはヘビか!)優しく微笑み掛ける老紳士の姿があったのです。なんと気品のある端正なマスク。少し太めで眉尻の上がったきりっと凛々しい眉根。温かみと知性を感じさせる眼(まなこ)。筋の通った高い鼻。小さな口元に見える並びの良い白い歯。そのすぐ近くには皴か靨(えくぼ)か。頬には人生の深い年輪を思わせる皺が幾本か刻まれてはいるものの,75ほどの齢(よわい)に見える現在でも,誰が見てもイケメンに間違いなし。しかも,長身で細身。粋に,それでいて上品に着こなしたタキシードの蝶ネクタイは,まるでひらひらと塾長を宮殿の晩餐会に誘うように見えました。
塾長:[な,な,なんだ!! この老紳士は!?…それにしても,かっちょええ人だな…若い頃は映画俳優のようにモテモテだったろうなあ…な~に,わしもさっきイケメンウェイターにモテたしなあ~(副塾長注:塾長! 冗談が過ぎますよ。)(塾長注:うるさい!!)]
老紳士:「立派なカニですな。私は長い人生を生きて来ましたが,こんなに立派なカニを見たことがない。今夜は特別な夜だ。幸運ですよ。あなた様に感謝しなければならない。ありがとう。…ああ,ごめんなさいね。つい立派なカニに魅了されて,興奮してしまったようです。…忘れていました。はい,これ。」(副塾長注:よくヒアリングできましたね?)
塾長:[何語だ????]
差し出された赤いハサミを呆然と受け取りながら,塾長はもう一度,そのピーマンのような脳味噌で先ほどの言葉を反芻しました。(塾長注:わしは牛か! 「反復」だろうが。)
塾長:[だから,何語だ????]
老紳士:「ああ,これは,これは失礼しました。今夜の私はどうかしている。でも,それくらいに立派なカニなんですよ。はは。いや,いや,失礼。」
塾長:[今度は英語だ。でも,何を言っちょるのか,ようわからん。だから,さっきのは何語だ?????]
老紳士は徐(おもむろ)に内ポケットから高級そうな牛革の名刺入れを取り出し,塾長に一枚のカードを差し出したのです。
塾長:「ア,あ,ありがとうございます。」(副塾長注:一応,英語で答えたのですよね。塾長。)(塾長注:うるさい!!)
カードに目をやった塾長。
塾長:[ドイツ語か~~!?]
塾長:[この老紳士,さっき英語も話したぞ。まるで英語圏の人のように流暢な英語だった…。]
老紳士:「私はドイツ人で,ドイツで医師をしております。あそこに座っているのが,私の配偶者です。実は,娘がカナダに嫁いで来ておりましてね。昨日から娘の家に滞在しております。一週間ほどカナダに居る予定なのです。今夜はある目的のため,配偶者とふたりきりで,このレストランでディナーをすることにしておりまして。先ほど,このお店に入ったばかりなのですが,ちょうど,テーブルに着いたところで,あなた様の立派なカニをお見掛けしましてね。」
塾長:[やはり,ドイツの人だ!! それも医者だよ~!!]
塾長:[今回はちゃんと対応しないとな…昔,ドイツの人に対して申し訳のないことをしてしまったからな…それにしても,流れるようなドイツ語に英語…どっちもわからんわい!!]
塾長:[二重苦だ!! survivalの二乗だ!!]
塾長:[落ち着けよ…取り乱すなよ…survivalの世界では焦りは命取りだぞ…そうそう,過去の経験を生かすんだ,その時が来たんだ。…まずは,えっと…奥様はどこにいらっしゃるんだ。奥様の位置,言動にはしっかり気を配らないといけないぞ。…ああ,あそこだ。あの女性だな。…ううん,確かに,向こうのテーブルに,これまた気品に溢れる老淑女が背筋をピンと伸ばして座っているなあ。…あれっ?…でも,なんだか様子が変だ…こちらには全く視線を向けてないぞ。真っ直ぐに前方の,それも遠くを見つめる眼差しだ。…前方はウッドハウスのような壁だぞ…口元にはやさしい微笑みを湛えているが…貴婦人だからか?…]
そうなんです。塾長が大学2年生の時だったと申しております。
秋季休業中に友人と3人で京都を旅した時のことでした。
そこで,邂逅した若いドイツ人のカップル。
そのカップルに対して,若気の至りと言えばそれまで,塾長は国際的な大失態(?)を演じてしまったのです。
しかも,カップルの2人はドイツで医学を学ぶ大学院生でした。
注 本話はほぼ事実に基づいて構成してあります。
→つづく