新規塾生募集中!!
受講者募集中!!

教採受験界のパラダイムシフト!!
教員研修を基盤とする
教採対策
筆記選考と人物評価選考との
アウフヘーベン

〈ホンモノの教員〉 を
育成します

「場面指導Weekly解説ルーム」へはこちらからどうぞ。

時間感覚を養うスケジュール管理―軽度自閉スペクトラム症の息子の場合―

過ぎてゆく時間を澄んだ青空で表現し,時計が浮かび上がっている様子。 特別支援教育(療育)
過行く時間
この記事は約12分で読めます。

「集合時間に遅れるよ!!」
毎朝,息子の身支度の際に必ず口をついて出る一言。

早めに起床しても,どうしてもバタバタとしてしまう…。
やるべきことは理解できているのに,スムーズに事が進まない…。

その原因は,息子の「時間感覚の認識」にありました。

1 「今,6時59分よ。」

白地に黒のアナログ時計

私には,「このペースなら間に合う」「あと何分だから急がないと!」という時間感覚があります。
一つの物事に対し,それぞれどの程度の時間を要するのかといった,行う物事に対する「時間の経過」の認識ができているからです。

しかし,息子はその「時間の経過」の認識が乏しい。
したがって,「間に合う」「間に合わない」という予測ができません。

6時59分を表示している時計があるとします。
「もう少しで7時になるよ。」と息子に伝えても,息子には「もう少し」という時間がどの程度なのか分かりません。1分という時間が,長いのか短いのかという感覚がないのです。なぜならば,「できた」か「できていない」か,もしくは,「ある」か「ない」かといった0か100しかないからなのです。

現在の時刻に対する認識の仕方は,その左證と言えます。時計の文字盤に「6時59分」と表示されているとき,私は「もう7時だ」と思いますが,息子にはそのような認識がありません。6時59分は6時59分でしかないのです。それは,デジタル時計でもアナログ時計でも同じであり,たった1分であっても多少の誤差として丸め込むことができないのです。現在が何時であるかという理解はできますが,時間の流れに対しての理解は難しく認識に困難を伴います。

2 スケジュールボードを改変

これまで使用していたスケジュールボードは,朝と夜に取り組む「やることリスト」を(朝と夜とに)分けていただけでした。

自閉スペクトラム症の男児が,スケジュールボードを使い身支度をする様子
初代スケジュールボード
ホワイトボードをと両面マグネットを活用したやることリスト
2代目スケジュールボード

実は,【自閉症スペクトラムの息子のやる気を引き出すスケジュール管理】(住本小夜子,当塾公式ホームページ,2018.9.17)の記事を公開してから後,ホワイトボードが損壊し,新しく買い替えて2代目スケジュールボードを活用していました。ところが,使用していくうちに,決められたルーティンの行動を行う順序が分かりにくいという課題に気づいたのです。

そこで,ルーティンの行動を記したマグネットを上から下へ流れるように配置し(時間概念の直線的な視覚化),それぞれを行う目標時刻(行動の区切り)を書き込んでみました。

筆者注:神経発達症(これまで「発達障害」とよばれていたもの)のこどもたちの多くは,同時に複数の認識・行動が難しい傾向にあります。息子の場合,私の日頃の観察から,二つの認識・行動は可能ではないのかといった見立てがありました。そこで,「時刻(時間概念)」と「ルーティンの行動の完遂(行動に区切りを付けること)」との二つの認識(時間を認識することと現在行っている行動を認識すること)・行動(時刻を読むことと現在行っている行動)を連関させてみることにしたのです。

朝と帰宅後に取り組むことを分かりやすく順番に並べたボード。
改変第一弾のスケジュールボード(3代目)

息子の視覚により「新しいもの」と捉えられた3代目のスケジュールボード。
この様式(スタイル)を初めて使用した日,息子の行動はスムーズでしたが,翌日に奇妙な行動が現れます。

「パジャマのかたづけ」(目標時刻 6:20)までを早々に終えた息子が,体操座りをして,スケジュールボードが置かれた部屋のラグの上に座っているのです。

私 :「何しとるん?」
息子:「……待っとる。」
私 :「何を待ってるの?」
息子:「次にやることの時間になるのを待ってるんよ。」
私 :(なにーーーーーーー?!?!?!?!?!?!?!)

そうなのです。「6時25分に朝ご飯」と言われたら「6時25分に朝ご飯」なのです。目の前に準備されていても手を付けようとしません。

私 :「時間になってなくても,食べていいんよ。」
息子:「えっ?! 食べていいん?!」
私 :「(スケジュールボートを指さしながら)この時間は遅れないようにしようという目標であって,この時間にならないとやってはいけないということではないんよ。」
息子:「そうなんじゃ~。」
私 :「だから早く終われば次のことをしてもいいんよ。」
息子:「わかったー。」

というわけで,次の改変に取り掛かるわけです。

3 時間感覚を一緒に覚えられるスケジュールボード

時刻をペンで記入していましたが,(時刻を記入した)両面マグネットに変えました。(「よる」は帰宅時間が定まっていないので,時刻指定はしていません。)加えて,やることリストの裏面を「できた」という表示に変更しました。マグネットに書かれた時刻が過ぎれば,息子はそのマグネットを裏返さなければなりません。また,ルーティンの行動が終われば,そのマグネットを裏返し,「できた」の文字を視認するのです。

朝と帰宅後に取り組むことを分かりやすく順番に並べたボード。
改編第二弾のスケジュールボード(4代目)

改変のポイントは,「時刻」と「やることリスト」はそれぞれで機能するという点です。現在,息子に重視してもらいたいのは,あくまでも時間概念の認識であって,すでに覚えている「やることリスト」は以前より簡略化されています。

朝と帰宅後に取り組むことを分かりやすく順番に並べたボード。
時間と取り組みが並行して進んでいる場合

目標の「時刻」と連動して「やること」が進んでいる場合は,「時刻」と「やることリスト」の間にズレはありません。

朝と帰宅後に取り組むことを分かりやすく順番に並べたボード。
時間よりやることリストの方が早く進んでいる場合
朝と帰宅後に取り組むことを分かりやすく順番に並べたボード。
取り組みより時間が先に進んでいる場合

上記のように,「時刻」と「やること」との間にズレが生じると,スケジュールボードの表示にも見掛け上のズレが生じます〔ズレを視覚化する〕。

改変に改変を重ねた新たなボード(4代目)の使用方法を,実際にやってみせながら,息子に説明しました。息子は「時刻」と「やること」を別々に管理することをしっかりと認識しましたが,同時に2つのことを行うという難しさも感じています。息子には「あれもこれも一緒にできない」という特性があるのですが,あえて難易度の高いレベルに挑戦させてみようと思いました。なぜならば,それが息子の成長につながると考えたからです。

そして更に,目覚まし時計として使用している「アナログ時計」と,これまで使用していた「タイムタイマー」とをボードの横に設置しました。「アナログ時計」は時間が半永久的に動いているという長い時間の経過に関する視覚化を狙い,「タイムタイマー」は少し長い時間を要するルーティンの行動に対して,「じゅんびOK」までの時間を認識させるために使用します 。

つまり,アナログ時計は「時間が進んでいる」,タイムタイマーは「時間が減っている」ということであり,「時間が進むということは,時間が減っている」という時間感覚を息子に認識させる目的があります。

デジタル時計では1から2,2から3という文字盤(数字)の瞬間的な動きだけですが,「アナログ時計」にすると秒針・短針・長針とそれぞれの動きが見えるので,「時間が進んでいる」という認知ができます。「時間の感覚を身につけるのにも,時間が可視化されているアナログ時計は役に立つ」と言われています。

視覚化してあるタイマーと時間を覚えるための置時計
「タイムタイマー」と「目覚まし時計」

4 新たなスケジュールボードに挑戦

実際に,改変した「スケジュールボード(4代目)」,「アナログ時計」,「タイムタイマー」を使って朝の支度に取り組んでみました。すると,以前までは,時間が過ぎても焦ることをしなかった息子が,自らの行動が目標の時刻に追い付いていない時に,「時刻」のマグネットが多くひっくり返っていることに対して,どうやら違和感を覚えたようなのです。その結果,目標時刻にルーティンの行動が追いつくようにキビキビとした行動をとるようになったのです。

新しくなったスケジュールボードを使用し始めてから,(現在のところは,)「(動きが)止まっているよ!」「早くしないと!」「遅れるよ!」といった私の切羽詰まった声掛けが無くなっています。それまであえて気に留めようとしていなかった時計の動きをも,息子は自らがしっかりと確認するようになり,「時間=動き(時の動きとルーティンの行動の動き)」として認識できているようです。

ただ,正直なところ,こちらから何もアクションを起こさない訳ではありません。息子のその日の状態を見て,目標時刻の2分前と目標時刻に到達した際に「時計を見てますか?」「今,何時ですか?」と冷静に声掛けを行う場合があります。2分前の声掛けは,前もって知らせることで,行動ができなかったためのパニックを防ぐ効果があります。また,目標時刻に声掛けを行うことは,現状(目標時刻に達していることとその刹那に行っているルーティンの行動)を認知させ,次の行動を促す効果があります。

このように,日常生活の中で地道に繰り返し訓練することで,時計を見るという習慣を身に付け,時間感覚を養うことは可能です。このことについての詳細は,次章で触れることにします。

なお,上述した実践は,あくまでも息子の場合です。お子様個々の個性は異なりますから,同じように実践されても効果が薄い場合もあろうかと存じます。あらかじめご諒解ください。

5 心理学と医学から認知を考える

認知心理学の研究において「人間の心理的過程」があり,その過程で重要な要素は「認知機能」だと言われるようになりました。この研究結果が報告されるまでは,「知覚・感情・行動」の3つが研究の対象だったのです。

【人間の心理的過程】
1 知覚(見る・聞く・味わう・匂う など)
2 認知(判断・評価・分析 など)
3 感情(嬉しい・怒り・悲しい など)
4 行動(歩く・食べる・~する・~しない など)

人間は行動に移るまでの間に,知覚→認知→感情→行動という過程を経ます。上述した内容を,息子のスケジュール管理に当てはめてみると,


1 知覚(時計を見る,スケジュールボードを見る,タイムタイマーを見る)
2 認知(今,何時か,どこまで進んでいるのか,残りの時間はどれだけか)
3 感情(慌てる,頑張る,安心する)
4 行動(急ぐ,のんびりする)
となるのです。

また,児童精神科医・北海道大学大学院保健科学研究院 生活機能学分野 傳田健三教授の論文に以下のような記述があります。

1 .心理社会的治療
Rutter21)は ASD の治療の主な目的を以下の 4つにまとめている.
1)認知,言語および社会性の正常な発達を可能な限り促進,刺激すること.
2)硬直性,常同性,柔軟性のなさのような自閉症と関連した不適切行動を減らすこと.
3)多動,刺激性,衝動性などの非特異的な不適応行動を減らす,もしくはなくすこと.
4)家族のストレスと負担を軽減すること.

21) Rutter M:The treatment of autistic children. J Child Psychol Psychiatry 26:193‒214, 1985

「特集:心身医学の臨床における発達障害特性の理解 自閉スペクトラム症(ASD)の特性理解」(傳田健三,日本心療内科学会誌 Vol. 57 No. 1. 2017,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpm/57/1/57_19/_pdf)

息子が取り組んでいるスケジュール管理は,「人間の心理的過程」と「心理社会的治療」に対し合理化していると言えます。私は,家庭を中心とした認知機能訓練を各種機関と連携し,幼いころから実施することで,社会(学校や職場など)での困難を軽減することができると考えています。

6 工夫次第で何とかなる!!

小学校に入学してから,規則正しい生活のおかげで(波はありますが)幼稚園の頃に比べると結構落ち着いている息子。しかし,気になることはありました。それは,「今やるべきことを見失ってしまうこと」です。いつもと同じ場所にスケジュールボードがあるのに突然スケジュールボードの存在を忘れてしまったり,「〇〇をやる」と言った矢先に他のことに気を引かれ「△△をやっている」ということが,よく目につくようになりました。

そこで頭をよぎったのは「注意欠如・多動症(AD/HD)」です。昨年(平成30年)8月の時点で,定期通院している広島市こども療育センターの担当医に相談しておりました。次の通院が同年12月でしたので,それまでの様子をしっかり見てから診断してみようという話になったのです。

その間,私はメンタルケア心理士®の勉強をしていたのですが,学習領域に「精神医科学(精神医学)」があり,その中で「神経発達症」を学びました。学んだテキストには,DSM-5(米国精神医学会の「精神疾患の診断・統計マニュアル」)による診断基準も記載されており,私の見立てが立証されたと思いました。

普段の息子の様子から,注意欠如・多動症(AD/HD)の中でも,注意欠如が優勢であると判断できたのです。そのことは,その後,12月に療育センターの担当医に提出した診断テストにおいても明らかでした。

診断テストの結果は,「不注意=16点」「多動=8点」合計で24点。合計20点を超えると,注意欠如・多動症 (AD/HD)と診断されます(現段階では正式な診断書はいただいておりません)。息子は「注意欠如・多動症―不注意優勢型(ADD)」です。

「工夫次第で何とかなる!!」

そう強く断言したのは,担当医でした。
その理由は「多動が強く出ている場合は薬の処方も考えるけれど,不注意優勢であるならば,生活環境の工夫で乗り切れることが多い。」というものでした。もちろん,私も同意見でした。

これからも,息子の状況をしっかりと見立てながら,その時々の状況に合わせてスケジュールボードをさらに改変していきたいと強く思ったのでした。

ただ,あくまでも,スケジュールボードの改変は,一つの取り組みに過ぎません。息子には,これから生きていく(〈自立・自律〉する)ためのいろいろな力をつけていかなければなりません。

そのためにも,試行錯誤と訓練の繰り返しの日々が,息子の自律スキル,ソーシャルスキル等を高めていくのだと思います。(その成果が少しでも出れば,母子ともに嬉しいものですよね。)周りの方々に助けていただきながら,そしてたくさんの情報を取り入れ,将来をしっかりと見つめながら,こどもたちの〈自立・自律〉に向けて取り組んでいきたいと思います。

次回は,〈自立・自律〉について記述いたします。

追記

【自閉症スペクトラムの息子のやる気を引き出すスケジュール管理】(住本小夜子,当塾公式ホームページ,2018.9.17)の記事では,息子のやる気を引き出すために,スケジュールボードの活用とトークンシステムについて報告させていただきました。しかし,今回,スケジュールボードの改変に当たり,息子と話し合った結果,シールをご褒美とするトークンシステムを用いないことに致しました。小学2年生になるに向けて,「シールのご褒美」は〈卒業〉を迎えたのです。

息子:「ご褒美のシールは要らんよ。2年生になるから。ご褒美はかあちゃんが褒めてくれたらいい。」

私は,実質,次のトークンシステムに組み込まれたのです(笑)

【参考】

© 2019 「鍛地頭-tanjito-」


タイトルとURLをコピーしました